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デジタル版・新聞

木村伊量の ニュースコラム

巨星が消えていく 大宇宙のいとなみ

 ハワイほどではなくても、冬の晴れた夜には、東京からも天上の星たちがよく見えます。でも、最近のニュースで、世界中で見える冬の代表的な星座「オリオン座」に異変が起きていることを知りました。

 ギリシャ神話に登場する狩人オリオンの右肩で、オレンジ色に輝くベテルギウス。地球から約700光年と天の川銀河の中ではかなり近い距離にある一等星なのですが、昨年の秋から観測史上もっとも暗くなり、数年後には見えなくなるかもしれないというのです。巨星に何が起きているのでしょうか。

 素粒子物理学者の村山斉博士によると、ベテルギウスは約800万歳で、太陽や地球の46億歳に比べるとはるかに若いそうですが、重さは太陽の10倍以上あり、「太く短く生きる運命」とのこと。すでに中心の水素燃料をほぼ使い果たし、いずれは超新星爆発を起こして、おびただしいガスの衝撃波やガンマ線などをまき散らして消えていく。なんとも凄まじい劇的な散りぎわですね。

 ベテルギウスが暗くなったのが、超新星爆発の前兆かどうか、はっきりしたことはわからないのですが、小柴昌俊博士のノーベル物理学賞受賞で有名になった岐阜県飛騨市にある「スーパーカミオカンデ」は、24時間態勢で超新星から地球にも大量に飛来するはずの素粒子ニュートリノをとらえる瞬間に備えています。いざ、ニュートリノ飛来かとなると、ハワイ島マウナケア山頂のすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡が一斉に観測する手はず、だそうです。

 超新星爆発と聞いて、門外漢のわたしが思い出すのは、平安末期から鎌倉初期にかけての歌人・藤原定家(ふじわらのていか)の『明月記』に見える「客星」の記録です。定家が晩年、占星術や天文道に通じた陰陽師(おんみょうじ)の安倍泰俊(あべのやすとし)から聞き及んだ情報とされ、西暦1054年の超新星爆発の様子をつまびらかに書き留めており、世界的にもたいへん貴重な記録です。当時の人々は、星辰(せいしん)の運行で吉凶を占い、星空の不思議に深い畏敬(いけい)の念を持っていたのでしょう。

 余談ながら、大宇宙のいとなみと、自分の人生を重ねた人もいます。『トム・ソーヤの冒険』で知られる米国の作家マーク・トゥエインは、ハレー彗星が観測された1835年に生まれました。「自分はハレー彗星とともに地球にやってきたのだから、ハレー彗星とともに去っていくだろう」と予言し、その通りにハレー彗星が次に現れた年に世を去りました。ちょっと、格好よすぎるかなあ。

 超新星爆発の話に戻ると、わたしたちのいのちの源である太陽も、村山博士によると核融合に必要な水素燃料が減っているため、なんと毎秒40億キロずつ体重が軽くなっているそうで、54億年後には燃え尽きて寿命を迎える、と言われます。そうなったら、とても人間も地球には暮らせませんよね。では、どうするか。太陽系の外のどこかの星、たとえばウルトラマンの故郷の「M78星雲」にでも、集団移住するしかないのかな。もっとも、そんな途方もなく遠い未来のことを、今から心配しても始まりませんが。

 昔、高校の地学の授業で教師から「宇宙に星はいくつあるか」と聞かれました。答えあぐねていると、「星の数ほどある」。そりゃ、そうだ。皆さんも宇宙はどこまで広いのか、と考えたことはおありでしょう。16世紀のイタリアの修道僧ジョルダーノ・ブルーノは「宇宙は無限であり、しかも無数の宇宙がある」と唱え、キリスト教の教えに背くとして、火あぶりの刑になりました。17世紀のフランスの科学者で哲学者のブレーズ・パスカルは「無限の空間の永遠の沈黙がわたしを恐れさせる」と、神なき宇宙の孤独をのろいました。

 最新の宇宙物理学によれば、宇宙は10の500乗、つまり、ほぼ無数にあると考えられています。ユニバースどころか、マルチバースあるいはメガバースとも呼ばれる広大無辺な世界。その中の、ごくありふれた銀河系宇宙の中の、これまた何の変哲もない太陽系の、その第三惑星である地球に生きているわたしたち。しかし、この小さな星は、生きとし生けるものたちのかけがえのない「いのち」を紡ぐ、奇跡の星にほかならないのです。

 ハワイは北極星も南十字星も見ることができる、天体観察の特等席です。この季節、オリオン座の近くには、ハワイの冬空に蒼白く輝くおうし座のマカリイ(すばる=プレアデス星団)が観察できます。先人たちは、北極星やマカリイを目印に、太平洋の大海原を小さなカヌーで航海したのですね。

 都会の不夜城のネオンの誘いをしばし忘れて、きらめく星たちのささやきに耳を澄ます。永遠の宇宙とつながる、このうえなく贅沢な時間です。

 


木村伊量 (きむら・ただかず)

1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。


 

(日刊サン 2020.2.1)

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