水の都・京都

 11/09/2019

 紅葉が色づき始めた京都に行ってきた。一つは名残のハモとはしりの松茸を使った「土瓶蒸し」など秋の味覚を楽しむため。もう一つは水の都・京都を堪能するため。といっても京都の中心街を流れる鴨川でもないし、嵐山・渡月橋の下を流れる保津川(大堰川)でもなくて、「琵琶湖疎水」の遊覧船!

 

 明治維新で天皇が東京に行き、首都は東京に。京都は人口が減り産業は衰退の一途をたどっていた。そこで3代目の北垣京都府知事が県境の山の向こう側の琵琶湖から水を引いて、産業振興を図ろうと大反対を押し切って「琵琶湖疎水」(運河)の建設を5年近くかかって完成させたのだ。発電所も何カ所か作り、以来、120年以上、琵琶湖疎水は流れ続き、現在も京都の街の上下水道・工業用水・発電など様々な事業振興に役立っている。

 

 ただ、米・炭・石材・海産物など北陸などからの物資を運んできた舟運は鉄道やトラック運送などに取って代わられ、戦後まもなく途絶えてしまった。が、観光に役立てようと去年新たな観光船が就航した、というわけだ。

 

 この観光船は、滋賀県・琵琶湖のほとりの大津と京都府・蹴上(けあげ)を結んでいるのだが、琵琶湖と蹴上の水位差は4メ-トル。大津側にパナマ運河やスエズ運河と同様な閘門(こうもん)がしつらえられていて水位を調整している(これも面白い)。約8キロの距離を平均1/2000の超緩やかな勾配で水を流しているそうで、蹴上行きの船はその上をたゆたっていくが、大津行きの船はエンジンをかけ白い水しぶきを上げてさかのぼっていく(私たちはこちら)。幅4メ-トル強の水路の両岸には色づきはじめた紅葉や名残のコスモスの群れ。鴨が泳いでいたり、サギが時々舞い降りたり「桜のトンネルや菜の花の季節はそれはそれは見事なんですよ!」とガイドさんが説明してくれる。いくつものトンネルをくぐるが、そのうちでも当時最長のトンネルだった第一トンネルは山を掘り抜いただけに難工事だったようで、日本で初めての竪坑方式を採用、山の両側だけでなく4方向から掘削して掘り抜いたという。トンネルの壁面に映像が投射され、疎水を作った北垣知事が口だけ動かして説明するのも面白い。最終地点の大津には小一時間で着いたが、歴史を旅する気分がたっぷりで、桜の季節に今度は大津からゆったりと下ってみたいね、というのが一同の感想。

この疎水の水の恩恵を被っているのは上下水道や産業や観光だけではない。開通3年後の明治26年(1893年)には早くも近くの公的施設・円山公園の噴水に土管で水を引いて使われている。その翌年には作庭家(日本庭園を造る人)の小川治兵衛が「防火用水」の名目で個人の庭に水を引き込み始め、あっという間に南禅寺周辺に山県有朋など明治の元勲や豪商の別邸に水の流れを楽しむ庭園が相次いで造られた。現在も非公開の庭園が多いのだが、縁あって今回、そのうちのひとつ「対龍山荘」にお邪魔することができた。

 

 東山を背景にした借景(しゃっけい)の見事なお庭で、ここも紅葉がほんのり色づき、大きな池・石・木々の配置が息をのむほど美しい。何よりも水の流れを意識して、南端には小さな滝から水を落として浅い流れをつくり、かすかなせせらぎの音を楽しむ。その水を書院の下で池に落とす。書院は足下の水を楽しむように池に突きだして建てられている。一方東側の端には大きな滝に水車、目にも楽しいし、滝の音がいかにものどかな田舎にいるようだ。とはいえ、実は大滝自身の音はさほど大きくはなく、書院側の小さな滝で書院だけに音が響くように工夫がこらしてある。北のせせらぎの音を消さないようにという配慮からで、日本人の心の細やかさに感心してしまった。

 

 と書いてきたが、実は京都府というのは地下水が豊富で、近年判明したところによると京都盆地の地下には琵琶湖に匹敵する約211億トンという豊富な水量の地下ダム(京都水盆)があるのだ!そういえば、「源氏物語」にも広大な池に舟を浮かべてその上で雅楽を演奏して楽しむ場面が出てくるが、この地下水があればこそ。湧き水も多い。安倍晴明が念力によってわき出させたという清明井、清水寺の音羽の滝、昔、染め物がなされたという梨木神社・染井の井戸、等々いくらでも名水があげられる。もちろん伏見の酒造り、友禅染、豆腐・菓子作り、どれもがこの美味しい地下水のおかげ。京都1200年の伝統をはぐくんできたのだ。「京都は水の都」と、改めて感服した次第。

 

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

(日刊サン 2019.11.02)


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