帰って来た寅さん 今年、映画は

 11/30/2019

 映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」を見た。12月末の一般公開に先駆け、日本記者クラブが松竹の協力で試写会を企画、今月半ばにスクリーンで寅さんに会った。山田洋次監督(88)が第一作から50年を機に、渥美清さんの過去の映像を生かして奇跡の作品を生み出した。

 

 記念の映画は、寅さんに可愛がられた甥っ子満男が成長して小説家になり、妻を亡くして娘と二人暮らしの設定。初恋の泉(後藤久美子さん)と再会する筋立てで、寅さんの恋人、リリー役の浅丘ルリ子さんらが熱演、よく考えられた娯楽作品。

 

 これまでに見た今年の映画は「寅さん」を含めて40本。「男はつらいよ」はこれまで48作(亡くなった翌年の1997年に49作目特別編公開)で第一作公開の1969年は、筆者が新聞記者になった年だった。現役の頃は、なかなか映画館に足を運べなかったが、リタイア後は、シニア料金(今年100円値上げされて1,200円)の恩恵もあり、スクリーンに向かう時間が増えた。同年代の観客が多く、高齢者の映画仲間が増えていることも実感する。

 

 今年は、1月3日に「私は、マリアカラス」を見たのを始め、印象に残る映画が多かった。記憶に残る映画を上げると、まず6月の「新聞記者」がある。東京新聞・望月衣塑子記者のベストセラーが原案で、現実の政治を連想させて迫力があった。彼女は菅義偉官房長官の記者会見で厳しい質問を続け、「知る権利」をめぐる議論の渦中に。その日常を追ったドキュメンタリー「i 新聞記者ドキュメント」も11月に公開され、新聞が直面する課題を考えさせられた。「i」は東京国際映画祭でも「お帰り 寅さん」とともに上映された。

 

 メディアで仕事をしてきた立場としては、最近の政治とメディアの関係には強い懸念を抱くが、こうした作品を実現した映画人の心意気を評価したい。「新聞記者」の映画作りでは、記者役を引き受ける女性俳優が見当たらず、韓国の女優が選ばれたと聞いた。映画界だけでなく、芸能人の政治的発言や活動を萎縮させるドメスティックな風潮も取りざたされ、時代の閉塞状況を感じた。

 

 メディアに関する映画では、4月に見た米国の「記者たち 衝撃と畏怖の真実」が見応えがあった。ブッシュ政権当時、イラク戦争の大義名分として大量破壊兵器の存在が喧伝されたが、この虚構に、中堅新聞社の「ナイト・リッダー」が挑み、4人の記者の苦闘に共感した。メディア不信のトランプ大統領のもと、メディアの本来の在り方に、強く心を惹かれる思いがあった。

 

 8月に見た日本映画「天気の子」とアフリカ・マラウイが舞台の「風をつかまえた少年」は、各地に大きな被害をもたらした温暖化による気候変動と自然エネルギーの問題を考えさせられた。アニメーション映画「天気の子」は「君の名は。」で大ヒットを記録した新海誠監督が手がけ、天候の調和が狂ってきた時代に、祈りによって晴天をもたらす少女と離島から東京に来た高校生を中心とした物語。アニメはあまり見ない世代にも、感動的だった。

 

 映画「風をつかまえた少年」は、村が大干ばつで飢饉に見舞われた際、中学を学費不足で退学させられた14歳の少年が図書館で出会った本を基に風力発電装置を作り、畑に水をもたらす。実話に基づく作品で、主人公のカムクワンバさんは映画公開に合わせて来日し、「私の経験が刺激になれば」と語った。

 

 今年はベルリンの壁崩壊から30年。壁の建設直前の東独を舞台にした「僕たちは希望という名の電車に乗った」は、民主化を求める高校生の姿が、忘れかけた歴史を思い起こさせた。

 

「 ヒトラーVSピカソ 奪われた名画のゆくえ」は、ヒトラーの罪悪やユダヤ人虐殺の歴史を忘れることなく繰り返し作品化する欧米映画人の強い意志を感じさせる作品の一つ。米映画「グリーンブック」は今も残る黒人差別を真正面から見つめると同時に、差別を超えた人間同士の絆も感じさせた。クルドの女性が主人公の「バハールの涙」も、中東の現状に視野を広げさせてくれた。硬派のテーマに取り組み、映画としても十分鑑賞できる良質の作品に出合うと嬉しい。

 

 中国映画「帰れない二人」やインドの「パットマン」などの佳作にも巡り合った。もちろん、「ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD」「さらば愛しのアウトロー」「パピヨン」「アラジン」や吉永小百合さんの「最高の人生の見つけ方」など理屈抜きに楽しませてもらった映画も多い。

 

 映画館数は50年前に3602館(一般社団法人日本映画製作者連盟調べ。以下のデータも)。その後、減少傾向が続きその趨勢は変わらないが、一方で複数のスクリーンを持つシネ・コン(シネマ・コンプレックス)が次々に設けられ、2000年からは統計でもスクリーン数を採用。直近のデータで3561スクリーンに達して、ほぼ50年前と同レベル。昨年の観客動員数は1億9600万人、公開作品も1192本と過去最多となり、映画人気は復活してきた。

 

 12月1日は映画の日。来年も笑いと涙と感動の映画を期待したい。

 

 

 


高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の 追いつめる』『中坊公平の 修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ』を自費出版。


 

 

 

(日刊サン 2019.11.26)


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