大嘗祭と阿波忌部

 07/27/2019

四国で二番目に高い剣山を望む徳島県・木屋平地区(美馬市)。海抜552メートルの高地で、秋の大嘗祭(11月14、15日)に向けて、「麁服(あらたえ)」と呼ばれる麻で織った布を天皇に調進するため、特別の許可を得て大麻が栽培されてきた。

 

大麻は4月に播かれた種からすくすくと伸びて3メートル近くに成長し、麻を収穫する「抜麻式」と麻を湯通しする「初蒸式」が7月15日に執り行われた。 大麻の畑は、忌部族28代当主、三木信夫さん(82)の「三木家住宅」の前にある。

 

「麁服」調進は、「延喜式」などに記録が残され、大和朝廷の時代から阿波忌部族にのみ委ねられてきた。三木さんは先の天皇に続き、二代の即位儀礼に重要な役割を務めることになり、式後に、「ほっとしている。引き続き作業を完遂したい」と語った。

 

ちなみに、忌部とは「穢れを忌み嫌い、神聖な仕事に従事する集団」を意味する。阿波忌部は大和朝廷の祭祀を司り、衣食住の生活文化や農業技術を、黒潮に乗って、千葉県はじめ関東地域に広めた。

 

最近の研究で、古代文化に占める存在の大きさや果たした役割が見直され始めている。カヤを有効利用した剣山山系の傾斜地農法が昨年、世界農業遺産に登録されたのも、忌部族の高い技術と自然を生かした知恵の成果、と忌部研究者・林博章さんは説明する。

 

大嘗祭は天皇が神と一体となり正統性を授かる儀式で、「麁服」は寝床に横たわる天皇の足元に置かれ、即位の儀式に欠かせない。一連の儀式は宗教的色彩が濃く、憲法にも配慮して地元の特定非営利活動法人あらたえ(西正二理事長)を中心に民間事業として進められてきた。

 

麻畑警備も含め3,000万円を超える費用を必要とし、「あらたえ」が善意の寄付を募ってきた。 大麻は精麻などの手順を経て、私の生まれ故郷、吉野川市山川町の忌部神社の巫女たちの手で織られ、皇居に運ばれる。ここでも「阿波忌部麁服調進協議会」(木村雅彦会長)が結成され、準備が進む。

 

我が祖先は「紙漉き」を業とし、忌部族である、と我が家の古文書に記されている。数年前までは、こうした知識にも疎かったが、天皇譲位などの歴史的動向を背景に、関心を高めてきた。

 

「令和」への改元に続き、5月の天皇即位、そして大嘗祭という流れの中で、日本人の誰もが天皇制について思いを巡らす機会が増えた。個人的な話だが、今年の正月、人生で初めて、皇居一般参賀の15万人超の列に加わった。その動機はといえば、譲位を決断した天皇に対する思いだった。

 

先の天皇は、昭和天皇の逝去に伴う即位(1989年)以来、象徴としての天皇という課題に誠実に向き合ってきた、と多くの人に受け止められている。

 

昭和天皇の戦争責任論を背景に、第二次世界大戦で多くの命が犠牲となった戦場に、先の皇后とともに足を運び、頭を下げた。慰霊の旅は、皇太子時代に訪れた沖縄を筆頭に、硫黄島、広島、長崎、そしてサイパン、フィリピンやパラオなど海外の戦地にも広がった。先の天皇が、平成という時代を「戦争の犠牲を生まなかった時代」と振り返った感慨がうなずける。

 

同じように国内の自然災害の被災地にも二人で積極的に訪れ、床に腰を落として被害者の手をとり慰めや励ましの言葉をかけた。東日本大震災の被災地などで被害者に寄り添った二人の姿は、新しい象徴の形として国民に受容されてきた。

 

天皇譲位直後に刊行された『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(西川恵著、新潮選書)を読むと、ヨーロッパや東南アジア、中国にも視野を広げ、綴られた「平和」への思いに、共感できる話が多い。その一方で安倍首相のもとでの現実の政治との乖離も浮かび上がり、悩ましい関係を実感する。

 

新しい時代に、天皇制をめぐって国民はさまざまな課題を考える時期を迎えている。日本が、象徴としての天皇制を将来にわたって維持するのであれば、まず女性天皇の位置づけをどのようにするのか、決断が迫られている。

 

皇室典範は天皇について「皇統に属する男系の男子が継承する」と定めている。今回の参院選では、このテーマに対する各党の主張も一つの争点になった。公示直前に日本記者クラブで開かれた党首討論を傍聴し、「女性天皇を認めてもよいと考える人は挙手を」という質問に、各党首の反応を見守った。

 

野党各党首が手を挙げたのに対して、安倍首相の手は挙がらなかった。 現在、皇位継承の資格があるのは3人だが、それぞれの年齢を考えると、秋篠宮さま(53)の長男悠仁さま(12)に重い期待がかかる。その先に安定した皇位継承者が生まれるのか、予測は難しい。

 

さらに広げて、女系天皇を認めるかどうか、という課題もあり、国会は早急に取り組む必要がある。 即位した天皇が、先の天皇の平和への思いをどのように引き継ぐのか。あるいは、象徴としての新たな天皇像をどのように生み出していくのか、国民は見守っていかなければならない。

 

 

(日刊サン 2019.07.27)


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