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Study in Hawaii

Study in Hawaii|ハワイで学ぶ 海外在住者の日本語教育について その1

お子さんがハワイの学校に通っている、自身がロミロミなどの資格取得をめざしている…小中学校から大学、専門学校と、ハワイの教育機関は実に多彩。日刊サンではバイリンガル教育をはじめとする、“学び”の特集をしています。

 

 

プナホウスクールで日本語教師を務めながら 全米、ヨーロッパで採用される日本語教科書を作成した ひろみピーターソン さん

 

 今回は、オバマ米大統領の出身校として知られるプナホウ学園で、日本語教師をしていたひろみピーターソンさんにお話を伺った。ひろみさんは、1984年から2014年まで、プナホウスクールに教師として勤務。その間に、中高生用の日本語教科書Adventures in Japaneseを出版。現在では全米のみならずヨーロッパでも学校の授業で採用されているという、世界中の日本語教育に貢献した方である。教科書の題材は日常生活の挨拶から、原爆被害についてまで多岐に渡るもの。その功績が評価され、原爆とのかかわりにおいて反核平和に貢献した人などに贈られる谷本清平和賞も受賞された。

 

 プナホウの日本語教育は6年間

「教科書はほとんど30年掛かりで1から5巻まで書き上げました。すでに再版が何度もかかっていて、最近完成した第4版はハードカバーでイラストを盛り込み、カラーにしました。これのほうが子どもたちにもっともっと、興味を持ってもらえるかな、と思ったのです」

 プナホウスクールでは、日本語を中学1年から2年の2年間、高校はフレッシュマンからシニアまでの4学年。そして、中学生は教科書の1巻を、高校でも再びフレッシュマンでは1巻から4巻、5巻までをマスターするというカリキュラムを組んでいる。英語以外の語学教育という面で見ると、全米ではスペイン語がダントツ。英語を母国語にする人にとってはなじみがあるからだ。一方プナホウ高校でもスペイン語が最も多いが日本語はスペイン語に次いで2つ目に多い言語になる。

 

 完成前まではハワイ大学の日本語教科書を使用していた

 ひろみさんが教科書を作る以前も、プナホウでは日本語教育は盛んだった。日本語教師もたくさんいた。そのとき使用していた教科書はハワイ大学で作られたものだ。しかし、その教科書は大学生向けで内容が大学生と教授の会話であったり、社長と奥さんといったように、中学生、高校生にはリアリティがないものだった。どうでもいいトピックでは、子どもたちは興味が沸くわけもない。「なんかいいものがあればなぁ」とひろみさんも思いながら教えていた。その当時は、巷には中学高校生向けの日本語教科書がほとんどなかったのだ。あってもアメリカではなくオーストラリアの教科書だったりし、題材はカンガルーやコアラが出てきたり、しかも内容が簡単すぎた。それではやはり、プナホウの生徒は優秀だからマッチせず、悶々とした2年間を過ごしたという。ひろみさんはプナホウスクールとは契約で教師となっている。期間は3年か5年。その年数は、自らプロジェクトを立ち上げて完成させることによって、変わるというもの。だったら「5年のほうがいいかな」。これが日本語教科書を作るきっかけである。当時は、「こんな大変な仕事になるとは思わなかったですね」(笑)   

 

 ライフワークとなった日系3世のナオミ平野大溝先生との共同作業

「私の娘が中学2年。友だちとどんな内容を話しているか。簡単な会話を書き出しました。それをベースにテーマを膨らませていった。これであれば、生徒は興味を持ち、その授業に乗ってくるだろうと思ったのです」。

 内容を読み上げたら生徒たちが話し出した。テーマが自分たちにマッチし、伝えたいことが話せるような単語が載っている。取り上げられているテーマもいいから授業が盛り上がってくる。それまで以上に日本語の授業は活発になった。すると1巻が終わると2巻を作らねばならない、と続くことになった。この仕事は最初ひろみさん一人で始めたが、一人ではぜったいできるわけがないと、同僚で日系3世のナオミ・平野大溝先生にお願いをしたのである。

「彼女はプリンスアキヒト・スカラシップの1期生。日本のICUに2年留学した経験があります。もともとハワイ島のヒロ出身でおじいちゃんやおばあちゃんとは日本語で会話をしていた。ミッドパックで教師をした後にプナホウに来た方です。教科書を作るには、日本人とローカルの両方が必要です。日本語は私は書くことができる。でも、日本語をいかにローカルにわかってもらうか、という部分は自分ではできない。そこで大溝先生に参加してもらったわけです。文法、文化の説明は日本人だけでは伝えられない。私目線で書くとアメリカの人には伝わらないわけです。だけど大溝先生が書くと、生徒は納得してくれる」

 次第にプロジェクトは大きくなってくる。ひろみさんが高学年を教えている間、低学年を教える人も必要となる。ワークブックが必要になり、オーディオブックも必要になり、ビジュアルも必要になる。ほかの先生も巻き込み、プナホウスクールの一大プロジェクトになってしまった。結果、30年。全米で使われる教科書になったわけだ。

Adventures in Japanese 1~5 Cheng & Tsui Company刊 https://aij.cheng-tsui.com/

 

 日本人でも難しい高校3年生の問題

 ひろみさんはプナホウスクールの日本語教師をリタイヤしたあとも2年間かけ、改訂の作業も続けている。この教科書『Adventures in Japanese series』はワードの博文堂の奥にずらっと並んで販売され、一般にも入手が可能だ。1巻は日常生活の言語と文化、2巻はコミュニティに出て日本語が必要な場所での言語と文化、3巻がホームステイで必要な言語と文化。そして4巻で取り上げたのが、もっと日本のことを知りたくなった生徒が日米の接点について学ぶという内容。

「5巻はAP(Advanced Placement)という試験向けの内容でかなり高度なものになります。テキストの題名は『できる!』。読む、書く、聞く、話すの4つですが、たとえば、書くのテキストチャットの問題、『こんにちは、今日はちょっとお願いがあるのですが』に対して、タイピングで回答。各質問に90秒内で6問答えなければなりません。5巻を修了している生徒は約410の漢字を覚えている必要があります。子どもたちは漢字をタイプしながら的確な答えを求められます。5巻の中でも、高校3年生の大学受験向けの内容、“比較と対比”となるともっと高度です。例えば、『デパートとコンビニを比較しなさい』という問題。これを日本語でタイプする。レポートを書くことが前提なので、イントロ、そして3つの類似点と相違点を答えの中に盛り込む必要がある。さらに最後にどちらかが好きかとその理由も入れて、20分で答えなければならないのです」いやいや、これって、日本人でも難しいのではないか。

「この教科書はニューヨークの全米一の名門公立校スタイベサント・ハイスクールというノーベル賞も輩出するチャータースクールでも使われています。3度ほど学校に行き、生徒の発表を見てみましたが、プナホウと遜色ないスピード、内容で授業が行われて感動しましたね。自分で作った教科書が全米で使われ、それによって子どもたちの瞳がキラキラと輝いているのを目の当たりにして、感動しました。また、あるとき日本の米軍岩国基地内の学校でもこの教科書が採用されていると教えてもらいました。ということは、米軍基地内の学校のあちこちで採用されているということです。岩国の米軍基地に通う子どもたちは日本の理解、広島の理解、原爆についての理解力は高くて、驚きましたね。今はヨーロッパでも採用されていると聞きます」

 じつはひろみさんの亡くなったご主人はコンピュータ教授で誤り訂正符号を発明した方で、日本国際賞、ジャパンプライズを受賞したという。表彰された際に、平成天皇皇后両陛下が出席された表彰式と晩餐会に出席したことがあるそうだ。席上、お隣に皇后さまが座られた際に「うちの家内がハワイで日本語教科書をつくったので今度送りますね」と伝えて献上。皇居内のライブライリーにもこの教科書があるはずです」と笑う。

 次回は、ヒロミピーターソンさんが日本語教育に盛り込んだ平和教育、についてお伝えする。

 

(取材・文 鶴丸貴敏)

 

(日刊サン 2020.2.21)

 

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