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デジタル版・新聞

インタビュー

ピアニスト 佐藤由美さん インタビュー

「第2回 立川談慶ハワイ独演会 & 佐藤由美ピアノコンサート」が先月19日、ホノルル妙法寺で開催された。談慶さんの2席の落語を挟む形で行われたミニ・コンサートで、佐藤さんはショパン、リストなど数曲を演奏。中でもショパンの『革命のエチュード』では、佐藤さんが交通事故で後遺症を負った際に出会った加圧トレーニングを取り入れた「加圧ピアノ」が披露され、通常のピアノ演奏とは一味違うパフォーマンスに会場が沸いた。今回は、佐藤さんが初めて訪れたハワイへの印象や、加圧しながらのピアノ演奏、2013年から続けている東日本大震災の復興支援活動などについて伺った。

 

 

初めてのハワイで奏でた一度きりの音楽

 

「ハワイに来てまず目に入ったのは古くて重みのある建物でした」

 初めてのアメリカは、昨年訪れたLAだったという佐藤さん。2回目のアメリカ、初めてのハワイの第一印象について、次のように語る。 「LAとハワイは似たところがあると思いました。日本にはない雰囲気で、最初に目に入ったのは建物でした。古くて重みのある建物がさりげなくあるのが素敵だな、というのが最初の印象だったんです。そこから徐々に、海など他の景色が見えてきました」

 

「ストレートに返ってくるお客様の反応が本当に嬉しかった」

 観客の雰囲気についても「終わってすぐ、反応がストレートに返って来る感じ」が日本と違うと感じたという。 「そのワッという反応が本当に嬉しくて。そういうものをいただいて、次の演奏に繋げていくという感じでした。いつも会場の空気感を肌で感じながら演奏しているんですが、まず楽器があって、自分のコンディションがあって、お客様がいて、その他にもいろいろな要素がある。その時、その場にしか生まれない音楽があり、それを創造していくというのが演奏の醍醐味なんです。ハワイで演奏することが決まったとき、どういう場所で演奏するのかな、ということをまず思いました。そして、どんなピアノが待っているのかなと。ハワイは全然知らない土地だったのですが、周囲の人から『すごくいいところだから。気分が全く変わるよ』と言われたんです。なので、その気分からどんな音楽が奏でられるか楽しみにしていました。演奏する場所はもちろん、お客様の雰囲気、温度感のようなものによって、創造する音楽が全然違ってきます。今日は難しいかもしれない、でもいいものが弾けたらいいなとか、今日のお客さんはノッている、だからいい感じに弾けているな、楽しいなとか。色々なことを感じながら弾いています」

 

 

 

 

交通事故後の後遺症と加圧トレーニング

「事故の前よりも弾ける。どんな音でも出せる感じです」

 数年前に交通事故に遭い、後遺症が残ってしまったという佐藤さん。治りたいという気持ちを抱えながらも身体がボロボロになっていく中、東大医学部出身の医師・森田敏宏さんが指導する加圧トレーニングに出逢った。「森田先生なら何かヒントをくださるのではないか」と直感したという。加圧トレーニングとは、専用のベルトで腕や脚の付け根を締めて血流量を適度に制限した状態で行うトレーニング方法。現在、佐藤さんは腕の付け根にベルトを付け、加圧しながら演奏する「加圧ピアノ」を実践している。 「加圧トレーニングに出逢い、森田先生の講座に参加して色々と教えていただいたのですが、最初に言われたのが『ジョギングをしなさい』ということでした。それで昨年の2月からジョギングを始めたのですが、もともと大嫌いだった走ることにハマってしまい、今ではハーフマラソンを完走できるようになったんです。次の目標はフルマラソンですね。いつかホノルルマラソンに出られたらと思っています」

 

「指先の感覚が冴え、鍵盤の状態を細かく察知できるんです」

 ジョギングと加圧トレーニングとの相乗効果で体力が付き、腕にも筋肉がついてきた。後遺症があったとしてもそれを乗り越えていける、痛みを乗り越えられると自信がついてきたという佐藤さん。今では「事故の前よりも弾ける」と語る。 「楽なんです。どんな音でも出せる感じがして。最初、森田先生は『加圧しながらピアノを弾くのは無理なのでは』とおっしゃいました。実際、動きが不自由で、指を鍵盤に下ろすこともできないきつい状態だったんです。でも、少しずつ動かすことで徐々に弾けるようになり、ショパンの『革命のエチュード』を加圧して弾けるようになりました。加圧は長時間やってはいけないトレーニングなのですが、どんな曲でも加圧して練習することで技術が向上します。除圧したときは、脱力感が味わえる。そして血流が戻ってきて、神経が冴えてくるという感じです。開放感があり、ほっとして、指もリラックスするのを感じます。除圧してから少し時間を置くといい感じですね。加圧ピアノがすごいのは、運動的な技術だけでなく、表現のための繊細な技術が向上するところ。指先の感覚がどんどん冴えてくるので、鍵盤の状態を細かく察知できるんです。指が自由自在にコントロールできるのは感動ものです」

 

ピアニストとして

「電子ピアノにも電子ピアノでしか表現できない音がある」

 コンサートホールよりも、今回の妙法寺のような場所で弾くことが多いという佐藤さん。2013年から続けている東日本大震災の被災地巡りでは、ピアノがないところも少なくないため、電子ピアノを持ち込んでいるという。 「電子ピアノは、電子ピアノでしか表現できないものがあります。電子音は作られた音ですが、それをどう重ねてどうブレンドしていくのかを考えるのが面白い。その組み合わせは無限にあり、電子ピアノの持つ味もたくさんあるんです。そして、先程も言ったような場の雰囲気などによって、その場でしか出せない、たった1回だけの音楽が演奏できるんですね」

 佐藤さんがお母さんから手ほどきを受けてピアノを始めたのは4歳半。 「ピアノの道へ進んだのは母の意思によるもので、子どもの時から決まっているような感じでした。自分はずっとピアノを弾いていくんだなと思っていました。人前で弾くようになって、コンクールで賞を取ったりするようになると、『本番が好き』『うまく弾けた』『褒めてもらえる』というようなことを思うようになったんです」 現在、事故の後遺症を乗り越えつつある佐藤さんだが、1日5時間ほどピアノを弾いている。

「自然にピアニストの道を歩んできたのですが、苦労もたくさんありました。でもやはり、ピアノを弾くことで幸せを感じているのだと思います」

 

 

 

東日本大震災の被災地復興支援

 佐藤さんは、東日本大震災の復興支援にも力を入れている。 「茨城県北部も相当な被害を被ったのですが、ほとんど報道されていないんです。これは伝えなければならないと思い、2013年に同県の高萩市を訪れ、主に小中学校を回っています。その翌年から宮城県の石巻市と東松島市にも毎年行くようになり、仮設住宅や災害復興住宅の集会所などで演奏しています。今年の3月11日は石巻市で14時46分の震災発生時の黙祷の時にショパンの『ノクターン』を演奏し、その時の様子を私の地元、愛知県一宮市と電話中継しながらFMラジオで伝えました」

 

 想いを込めるときはいつもショパンの遺作のノクターンを弾くという佐藤さん。 「仮設住宅などの訪問先では、『幻想即興曲』『英雄ポロネーズ』などクラシックの有名ものを弾いたり、みんなで童謡を歌ったり。『花は咲く』も必ず演奏します。そんな中、私のピアノを聴いてピアノを始めたという子どもさんがいたんです。1年後に再会して、『あれからピアノを習い始めて、こんなに弾けるようになったんだよ』とピアノを聴かせてくれたときには胸が熱くなりました。被災地に行くと、皆さんから勇気や元気をいただけるんです」

 

 事故後の後遺症を前向きな姿勢と弛みない努力で克服し、むしろ前進する力へと変えていく佐藤さん。その人柄と勤しみを写したピアノ演奏で、これからも多くの人々の琴線を震わせていくことだろう。

 

 

<聞き手>         鶴丸貴敏(『日刊サンハワイ』編集部)

                          アントニオ・ベガ(“Wasabi”編集長)  佐藤リン友紀(ライター)

<文・構成>     佐藤リン友紀

 

(日刊サン 2019.11.23)

 


佐藤由美(さとう ゆみ) 愛知県一宮市出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学音楽学部器楽科を経て、同大学院音楽研究科修士課程修了。杉浦日出夫、播本枝未子、多 美智子、渡辺健二の各氏に師事。全日本学生音楽コンクール(毎日新聞社主催/NHK後援)中学校の部名古屋大会及び全国大会第1位。日本モーツァルト音楽コンクール第1位。2015年に交通事故により左手に後遺症を負うが、森田敏宏氏(東京大学医学博士・日本加圧トレーニング学会理事)の指導のもと、次世代リハビリとしての加圧トレーニングで劇的に改善。その成果を2018年の日本加圧トレーニング学会で発表した。各地でのソロ活動のほか国内外のオーケストラとの共演などで活躍。これまでポーランド国立クラクフ室内管弦楽団、ドイツフィルハーモニアフンガリカ、北西ドイツフィルハーモニー管弦楽団、藝大フィルハーモニア、東京交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などと共演。2013年より毎年、東日本被災地にて「愛知からの音便り」コンサートを開催している。岡崎女子大学非常勤講師。

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