【インタビュー輝く人】脳科学者 茂木健一郎さん

 05/11/2013

茂木健一郎さんは、 「クオリア」という、感覚の持つ質感をキーワー ドとして脳と心の関係について研究する脳科学者。4月下旬に初のハワイ講演として、ハワイ大学マノア校で 『感動する脳』~脳科学者との対話~(ホノルル・ファウンテーション主催)やカピオラニ・コミュニティ・カレッジで学生とのシンポジウムを行った。活動の範囲は幅広く、脳と神経に関する解説書を多く執筆し、多くのテレビ番組や雑誌などで活躍する他、文藝評論、美術評論にも取り組む。ゲーム感覚で脳の活性化を促す紹介をしたり、脳科学の視点から教育や暮らしなどへのコメントをしたり、日本において 「脳科学」を身近に感じさせた、輝く人。

ライター :みなみようこ

 

大学院の特別教授からテレビキャスター、ゲームソフト監修まで

マルチに活動する脳科学者に聞く!

脳は鍛えられる

—日本の教育論についても言動が注目さ れていらっしゃいますが、名門校へ進学することとそれ以外の学校へ進学することでは脳に違いが出てくるのでしょうか?

 

脳科学から言えることは、名門校に入っ て、目指すゴールと自分の差がどれくらいあるか、その差を埋めてゴールヘと近づけていくことが学習であって、学習するのは脳 にとっていいことです。さらに努力をして達成できたら、それはすばらしいことです。では逆に、達成できない場合、そもそも名門 校へ行かないことがよくないかというとそ ういうことではないんです。 科学や技術の歴史では、ドロップアウトした人の中から面白い人が出ています。私の友人は大学を出ていませんが、インターネットのペンチャー企業を立ち上げ、その後、アメリカの大学にあるデジタル技術の教育や研究アプローチで有名な研究所の所長として活躍しています。 今はインターネットもあるので、どこにいても学びの機会はあります。伝統的な意味での名門校を目指して頑張るのもいいですし、そこから外れてしまっても道はあるのです。

 

-そもそも「頭がいい」とはどう解釈すれ ばいいのでしょう?

 

IQは、地頭の良さを表しますが、これはいろいろな科目の成績の間に関係があるらしいということを 1900年代初頭にイギリスの心理学者チャールズ ・ スピアマンが発見しています。1つの科目が得意な子どもは、ほかの科目も得意という傾向があります。一卵性双生児で研究したところ、IQは、50%は遺伝の影響があるようで、 50%はその後の努力次第。IQは生まれつきなのかというと、それだけではないということがわ かっています。

 

では、地頭の良さは何なのかというと、前頭葉の回路が何かに集中する時に、その回路が働いてそ れが頭の良さにつながっていくのですが、この集中回路がよく働いている人が地頭が良い人になるわけです。 大切なポイントはその鍛え方があるということです。優しい問題をたくさん解いても、その回路は働きません。ちよっとややっこしい問題を粘り強くやること。例えば、子どもにパズルを出した時に、すぐに諦めてしまうのはよくないのです。しつこくずっと考えている、そういう子どもは地頭がよくなります。我が子を賢い子どもに育てたいと思うなら、少し複雑な問題に粘り強く取り組むませる習慣をつけた方がいいですよ。

 

私自身は、粘り強かったようです。小学校 に上がる前に、父が囲碁を打っていて、それ を教えてもらって、この子は随分しつこく考えるなと思ったそうです。脳はそうして鍛えられ ていくんです。脳は筋肉と同じです。トレーニ ングをすれば筋肉が太くなるように、脳の回路も使えば使うほど太くなっていきます。 神秘化して生まれつきだとしてはいけな ぃ。集中できるかどうかということも、いくらでも鍛えられます。一説では、静かな勉強部屋で勉強するよりも、ノイズのあるところで勉強をする方がよいとも言われています。ノイズにも負けずに集中する力がつく 。東京大学の入学生は家族のいる居間で勉強していた人が多いようです。周りがざわざわしているようなところでも集中出来る子どもは伸びると思いますね。

 

 

これからのハワイの鍵は創造性

-ハワイには今後何が必要と感じられま すか?

 

今の時代で一番評価されるのは創造性ですね。人間に求められる能力が変わってきています。コンピューターが発達し、日本では将棋のプロがコンピューターのプログ ラムに負ける時代になりました。従来の勉強で必要とされてきたもの、例えば暗記はほとんどいらなくなっています。大量のデー タを覚えて処理するのはコンピューターができるので、マーケットであまり評価されなくなってきているのです。 でも創造性は、今のところコンピュータ ーではどうすることもできません。マーケッ 卜で評価されるのは、誰にも思いつかないことを思いつく発想と実行力です。これは従来の学力観と違うかもしれませんね。具体的にそれが何なのかは今、いるいろな研究がなされているのですが、創造性は単に正 解がある問題に効率良く答えるというのとは違います。

 

今回ハワイに来てカピオラニ ・コミュニテ ィ ・ カレ ッジを拝見したりして、ハワイの課 題は、ハワイにITの文化を広げることではないかと感じました。ITが世界の今後の産業の基本ですし、フエイスブックなどを見てもわかるように、非常に大きな新しい潮流です。それを支える人がいるということが付加価値をつけるということになります。 ITについては、日本でも課題になっています。日本では、従来の大学のカリキュラムが新しいものに対応していないのです。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスなどは新しい時代の潮流に対応したプログラムを行 って注目されていますが、伝統のある大学ほどモデルチェンジができないでいます。

 

灘高校という、東大合格者率などの進学実績が日本一といわれる学校の2年生で、中学3年生の時からiPhoneのアプリをどんどん開発している生徒がいるのですが、彼は、学校で教えてもらったというよりは勝手にやっているのです。ITをできる人は大体自分でしている人が多いので、学校で 教えるようになるといいと思うのです。 特にハワイでは、大規模な製造業などの産業をするというと難しいかもしれませんが、ITならアイディア勝負なので、スペースはそれほど必要ないですよね。もう少しITのリテラシーが上がるといいんじゃないか と感じます。観光業も、ITが加わるとより付加価値がついてくるはずです。 ハワイは本当に魅力的です。非常にアドバンテージがありますね。アメリカはITの革命の起爆剤となっているところで、ハワイはそのアメリカの一部です。

 

カリフォルニアによく行くのですが、特に先端技術企業の多くが本拠を置いているシリコンバレーのあたりは特別だと思います。グ一グル本社のキャンパスに行った時には、自分たちが世界を変えているという意識を持っていることを強く感じました。 ハワイはロケーション的にもカリフォルニアに近いので、コネクションができるところです。英語というアドバンテージもあり、 ITで世界を変えつつあるアメリカの一部というアドバンテージもあります。さらに、アメリカとアジア地域の真ん中にありますよね。日本や中国、韓国という東アジアは世界で存在感を増しています。そういう意味でも架け橋になることができるのではない かと感じます。 文化の融合は難しいものですが、ハワイ は昔から日系人の方々がいらして、今でも人口の20%くらいを占めています。アロハシャツもルーツは着物ですよね。こうしたいろいろな形でハワイの文化に日本の文化が溶け込んでいます。ハワイは、グロー バルな新しい文化を生み出すためのメルティングポットのような、ひとつのモデルケ一スだと思います。

 

今のグローバルな時代は、様々な文化が良いところを持ち合って溶け合ってできていく、それは理屈ではわかっているんです。でも、ハワイに住んでいる方は肌で感じるチャンスがありますよね。今回、カピオラニ ・ コミュニティ・ カレッジで学んでいる日本人の学生たちとたくさん話をしましたが、彼らはしっかり肌で感じていました。 日本も以前は日本の大学を出た人以外 は就職が難しいという傾向がありましたが、最近は企業自体がグローバル化しているので実質を見るようになってきました。ハワイでいろいろなことを学んだり経験したりすることが日本を含めているいるなところで生かされる、生かすことができるチャンスが出てきていると感じています。

 

 

ーハワイはのんびりした雰囲気に包まれ て、ITとは距離がある状況です。

 

ハワイの心地よさは大切です。例えば、グ ーグル本社の社員食堂はとても美味しいと評判ですし、勤務する人の服装はジ一ンズとTシャツ。ITの今の働き方は、昔みたいにネクタイ締めて、というのではなくてハワ イのような感じのスタイルで働いています。心地いいのは新しいことをするのに邪魔というのではないんです。楽観的に生きると 脳はよく動くものなのですよ。 それからコミュニティも必要です。どうや ってハワイでクリエイテイブなコミュニティを作るかということが鍵で、一人では難しいんです。クリエイティブな人が集まることで物事はうまく行くのです。ハワイの中でクリエイテイブなことに興味がある人のネットワークを作ることが大事で、そのネットワ ークはハワイだけにとどまるわけではなく ていろいろなところにつながっていく、まず行動した方が早いですよ。

 

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