香りの文化

 03/23/2019

毎日の生活の中で、皆様が最も多く感じる香りは何でしょうか?

 

料理の匂い、ビーチの匂い、アロマオイルや香水の香りなど、私たちの身近にはさまざまな香りがあります。

五感の中で最も敏感と言われる嗅覚ですが、長い間、人間が嗅ぎ分けられる香りは約1万種と考えられていました。

しかし、2014年、アメリカのロックフェラー大学のアンドレアス・ケリー博士の研究グループが、米科学誌『サイエンス』に「人間が識別できる香りの種類は約1兆種」というそれまでの常識を覆す研究結果を発表しました。

また「新しい香り」は日々発見・発明されており、2012年には世界で1200種類の新しい香りが発表されています。

今回のエキストラ特集では、香りの文化史、香りについての豆知識や、人が鼻で香りを感じるメカニズムなどをご紹介したいと思います。

 

香りの文化史

ヨーロッパ

古代エジプト・メソポタミア 紀元前3600頃〜

 「香り・香水」を意味する“perfume”の語源は、ラテン語で「煙によって」を意味する“per fumum”です。香料が初めて世界史に登場したのは紀元前3600年頃の古代エジプト。古代エジプト人たちは、ミイラを作る際に防腐剤として多くの香料を利用していました。用いられていた香料は、肉桂(シナモン)、白檀、乳香、「イリス」という菖蒲の根、ミイラの語源になった没薬(ミルラ)などでした。また、紀元前3000年頃の古代メソポタミア(現在のイラク・クウェート周辺)南部では、シュメール人が香りのするヒマラヤ杉を燃やし、その薫香を神に捧げていたといいます。  その他、身体に香油を塗ったり、香を焚いて部屋を香りで満たしたり、衣類に香の薫りを移したり、蓮の香りを移した被り物を頭に乗せたり、料理や菓子の風味付けにも利用したりと、さまざまな方法で香りが楽しまれていました。

 

Memo


乳香(フランキンセンス)

 乳香とは、ムクロジ目カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される樹脂のことです。ボスウェリア属の樹木は、アラビア半島南部から東アフリカにかけて分布しています。樹皮に傷をつけるとゴム状で芳香のある樹脂が分泌され、空気に触れると固まっていきます。1〜2週間後、乳白色〜橙色の塊となったところを採集されます。

 

 

 

古代ギリシャ 紀元前800年頃〜

古代ギリシャ時代には、ハーブや樹脂を使用した香料の製造が盛んになり、入浴後に香油を塗る習慣など、生活に香料を取り入れることが一般化していきました。陶器の瓶に入った安い香料は露店などで、装飾を凝らした小瓶に入れた高い香料は専門店などで販売されるようになりました。  アリストテレスの弟子で植物学の祖といわれるテオフラストス(前371〜前287)は、「香気について」という論文の中で、複数の香料を合わせることで香調が変化すること、香料の調合時に成分の揮発性を落とすことで香調のバランスを保つ保留剤についての考察、ワインなどのアルコール成分が香料の香り立ちをよくすることなどを記しています。  

ギリシャでは、世界最古とされる紀元前1850年頃の香水工場跡地が発掘されています。

 

原コリント様式のオルペ(ワイン容器)。ライオン、雄牛、山羊、スフィンクスが描かれている。紀元前640年から630年ごろ(ルーヴル美術館):wikipedia

 

古代ローマ 紀元前753年〜

やがて香料は、交易を経てギリシャからローマへ伝わります。さまざまな香料の中で、ローマ市民に最も好まれたのはローズウォーターでした。ローマでは、より幅広い層の人々が香料を使うようになり、浴室や寝室など家のあらゆる場所に固体や粉末の香料が取り入れられたといいます。美食家だった古代ローマの貴族たちは、当時調理によく使われていた魚醤の生臭さを消すため、香辛料を大量に加えた料理を食べていたようです。また彼らは、広大な社交用の建物の中心にあったローマ風呂で1日3回の入浴をし、入浴後は香油や練り香をたっぷりと身体に塗りました。ローマ人たちの香料への情熱は、その交易ルートをアラビア半島からインド、中国へと拡大しました。  また、香料と同時に需要が増したの香料用容器の生産は、ローマのガラス工芸技術が発展するきっかけになりました。

 

 

中世ヨーロッパ(中期〜後期) 11世紀〜

11世紀末に始まった十字軍の遠征以降、ヨーロッパには、インドの麝香(じゃこう)など、アジア地域の香料が入ってくるようになった他、「商業ルネッサンス」で勢い付いたヴェネチアの商人たちが、アフリカ、アラビア、アジアなどの広い範囲で香料やスパイスの交易をするようになりました。

 

世界の香水のメッカ ― 南フランスのグラース  

南フランスのリゾート地、カンヌのすぐ近くにグラースという町があります。フランス産の香水の3分の2が生産され、世界の香水の中心地とも言えるグラースですが、12世紀末までは皮革工業が盛んな町でした。  

16世紀、あるフィレンツェ人がグラースの町になめし皮の匂いを消すための香料を紹介すると、人々はこぞってそれを使うようになりました。グラースの温暖な気候は、ラベンダー、ローズ、ジャスミン、オレンジフラワーなど、香料の原料植物の栽培に適していたため、町で香料が生産されるようになりました。  

 

オレンジフラワー

 

18世紀頃、マルセイユの石鹸に香料が使用されるようになると、グラースは香料の町として発展していきました。のちに、シャネルNo.5などの香水がグラースで誕生することになります。

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