全てを懸けて守るべきものがある 五省―時を超えるその精神

 08/31/2015 : 2019 Views

 

戦争が起こらないように僕たちがいる

 

争いごとなどで、世界の平和が揺れている今、日本の平和と独立を守るのが自衛隊だ。「ルールや法というのは目に見えない。僕たちの仕事というのも、国民の皆さんにはなかなか見えにくい仕事です。どれだけやっていても誰が喜んでくれているかもわからない。でもたとえ見えなくても、日本の平和を守るために僕たちがいるんです。そうした気持ちをしっかりと持ってほしくて、遠洋航海で寄港すると、前の戦争の爪跡が残された場所には若い隊員をなるべく連れていくようにしています。昨年はガダルカナル島に寄港し、戦争で亡くなった方々の遺骨を収集している「ガ島未送還遺骨情報収集活動自主派遣隊」から御遺骨を受け取り、日本の厚労省職員に引き渡す御遺骨帰還事業にもたずさわりました。現在、遠洋航海中の実習幹部にもそうしたものに触れて、二度と戦争が起こらないように、僕たちがいるんだという思いを強くしてほしいと願っています。」

 

山崎さん_4313W

 

練習艦かしま 先任伍長

>山崎孝典 海曹長

 

陸・海・空に分かれた自衛隊。各国の軍隊との合同演習などをすると日本の自衛隊の技術力と統制力に賞賛の声があがる。廣崎先任伍長と同じく、海曹士を取りまとめる任にあたる山崎孝典先任伍長は、世界中でそのような評価を自衛隊が受けられる様日々努力している。

 

戦わずして勝つために、僕たちは絶対に負けられない

「他国の軍隊との合同演習はもちろん、訓練以外のレセプションなどでも、日本は全てに対して絶対に手を抜かず、徹底して行います。僕たちは、抑止力としての役割を担っている。だから合同演習で技術を競うようなことがあったら、絶対に負けてはいかんのです。陸上自衛隊が米軍の海兵隊のところに行って、厳しい訓練を受けた時、『君達は米海兵隊と同等若しくはそれ以上の能力を有する。』という評価を受けました。我々も米海軍と合同演習をした時に、太平洋艦隊司令官に『素晴らしかった』というコメントをもらいましたが、そうした評価を引き出す事も大切です。レセプション一つにしても、準備作業から乗員総員の心配りで米軍や他国海軍の方々に満足していただいています。戦後70年戦っていない自衛隊の力というのはそうしたこと全てから測られますし、完璧に行ってみせることで抑止力に繋がっていく。つまり私たちは日々『戦わずして勝つための訓練』を行っているのです。」

 

遺体揚収という作業―誰もが精神的に健全ではいられなくなる

東日本大震災での災害派遣では大型の輸送艦に乗っていた。最初の任務は、津波にさらわれた人たちの捜索と亡くなられた方々の遺体を揚収する作業だったという。「あの震災の現場というのは想像を絶する酷い状況でした。遺体揚収という辛い作業の中、誰もが精神的に健全な状態ではいられなくなります。それでも、亡くなられた方が多すぎて、不調を訴える部下たちに『ここはいいから下がれ』とは言えない余力のない状態でした。その時も先任伍長の任についていましたが、本当にこれ以上は無理という人間だけ休ませて、あとの全員に対しては隊員の話を聞きながら精神論で頑張ってくれと言い続けるしかなかった。でもそこは自衛官として持てる力以上の力を発揮することが求められている場面だと思いました。」遺体を揚収し、布で包み、ヘリコプターに送った。「私なんかはこうした作業が初めてだったので、遺体を引き上げて布でくるみそのまま搬送という形をとっていたのですが、途中で衛生看護の隊員はしっかりと遺留品や個人が特定できるものを探し、それを大事に袋に入れてご遺体と一緒に送りだしていることに気付きました。それを見て、あぁ、私は全く何も出来ていなかったんだなぁと反省。想定はして常に備えているつもりでも、現場に行かないと見えてこないものも多いですね。」

 

「僕にはとても断れませんよ!」泣きながら訴える部下からまた一つ学んだ

地獄のような光景が広がる被災地で、物資を運ぶ重要な任務を行っていた際、被災者から遺体を運んでほしいという依頼を受けることもあった。「部下から報告を受けましたが、今は一刻も早く物資を運ばなければならない任務がある。多くの人が我々の到着を待っている。そのことを説明した上で、丁寧にお断りをするように伝えた時に、部下が『だったら伍長が断ってくださいよっ!僕にはとても断れませんよ!』と泣きながら怒ったんです。実際その場に行って被災者の方々の前に立つとやはり断れない。現場を見ることの大切さを再度実感した瞬間です。艦を離れられない艦長の代わりに『艦長の目となり足となり』現場を見にいかなければいけなかった。自分では驕っているつもりはなかったけれども、結果的に自分の中に驕りがあったんだなぁとここでも深く反省しました。」

 

五省――自分に恥ずることなく今日一日全力で誠意を持って取り組めたか

このような自分の行動について、真摯に顧みる習慣というのは、海上自衛隊の中に受け継がれる「五省」という訓戒によるもの。現在は部隊では行っていないが教育機関ではみんなで唱和する。「今日一日の自分の行動は誠実であったか、手を抜くようなことはなく全力で精いっぱい取り組めたかを振り返るんです。この五省は自分が部下を持つ立場になってからより一層心に響きますね。特に『言行(げんこう)に恥(は)づるなかりしか』という訓戒。つまり言行不一致な点はなかったかということなんですが、部下から『偉そうに言っているけど、あの人は何もしないぞ』と思われてしまったら、部隊の士気が下がり、任務にも影響しますからね。」若い隊員ほど、今度の新しい伍長はどうなんだと試してくるという。「そこで、『お前は俺を試しているのか』と怒ってはダメ。そこは五省でいう誠意をもって一つ一つ丁寧に応えていくこと。そして率先垂範で自分が手本を見せることが必要です。スタンドプレーに見えてもそれが一番の近道なんですよ。」

 

若い隊員の成長に自信を持った

若い隊員たちを誇りに思う事もある。「通常自衛隊のような組織はトップダウンなのですが、震災の時には、「あれもしてあげたい」「こういう支援もできるんじゃないか」とボトムアップで下からどんどんアイデアが提案されたのです。例えばお風呂支援を行っている際、「伍長、お風呂からあがったら綺麗な下着を身につけたいですよね。洗濯をしてあげたらどうでしょう?」「伍長、携帯各社の充電器を置いておいてあげたらみんな使うんじゃないですか?」。洗濯支援においても、ホテルのクロ―クのように番号札を渡して、管理できるように自分たちで工夫していたり。あの時に、私は自信を持ちましたね。若い隊員たちが著しく成長してくれていることに。」この遠洋航海に参加している実習幹部にも「各国に寄港することは、寄港した先の国との友好関係を築くことが最も重要です。先輩たちがこれまで築いてくれた日本への信頼感、友好の気持ちを壊さず、更に強固な友好関係を築いてほしいと思っています。」

 

 

小林さんW

 

 

実習幹部

小林勇太 3等海尉

父親を超えたいと自衛官を志した小林3等海尉。4年間の海上自衛隊生徒、4年間の防衛大学、一年間の幹部候補生学校と、実に9年間の学びを経て、160日間に亘るこの遠洋練習航海を終えれば、ようやく部隊へ幹部として配属される。

 

士官として視点を持てるようこの航海で学ぶべきこと

「目指しているのは、すぐに動ける、初動を全力で行える幹部です。事が起こった時の即応性や、すぐに対処できる柔軟性、そうしたものをこの長い航海の中で身につけたいと思っています。火災や浸水など非常事態に備える訓練では、現場に行き、状況をしっかり判断して、指揮官に伝え、自分はどう対処するかを明言すること、逆に部下に対しては、意図を明確に伝えて実施させることが重要だと感じています。意図を説明せずに実施させると、部下たちも正しい行動ができない。きちんと伝えれば、ベテランである部下から『その場合はこうした方がいいですよというリコメンド』が上がってきます。特に私たちは部隊に配属される時には初級幹部。現場をよく知っている部下たちに情報をしっかり伝えることが大切だということは、この遠洋航海で学んだことの一つです。でも、現時点で士官幹部としての視点に立てているかというと、まだまだです。これからの訓練の積み重ねで、少しずつ士官としての視野を広めていきたいと思います。

 

自分がやれば自衛隊はもっと良くなる

幹部になろうと思った理由にも小林3等海尉の高いモチベーションが感じられる。「もともと一番下の海士から入隊し、下から見て組織がこうあるべきだとか、このような組織体系はよくないという想いから、自分がやればもっと自衛隊という組織が良くなる、良くしてみせると幹部を目指したんです。そこが私の原点。中学卒業からずっと自衛隊で活躍すべく教育を受けてきた海上自衛隊生徒出身者というのは、特にそういう思い入れが強いところがありますね。」下を経験しているからこそ、下のことまでわかった上で判断が下せる上司になれるのではないだろうか。「目指すところはそこですね。これまで学んできたさまざまな制約や環境でしっかり理想を持ちつづけたいです。一方で現実的には乗員をまとめる先任海曹室(CPO: Chief Petty Officer)とのコミュニケーションを大切にしていきたいと思います。」

 

「欺くな!」―国民の皆さんから負託を受けて武器を預かっているという自覚

現場をすごくよくわかっている乗員と、艦の指揮権を持つ幹部ではそれぞれやりたいことや考えは違っているという。「私たちはこの航海が終了したら、初級幹部として配置されますが、私は乗員の方々とコミュニケーションを取りながら、上司とのブリッジ役になれればいいなと思っています。とにかくコミュニケーション能力がなによりも大切で、人を魅了できるような人間的な魅力のある幹部になりたいですね。やりたいことの方針をしっかりと示せる大きな人間になるためには実力や背景が伴わなければならない。これからしっかり勉強していきたいと思います。」また、リーダーとして大切なことは「欺かない」ことだという。「部下との信頼関係の構築はもちろんのこと、私たちは国民の皆さんからの負託を受けて武器を預けられているわけです。その信頼は絶対に裏切れないですね。」

 

五省―今日一日誠意を尽くして行動することはできたか

海上自衛隊の精神的支柱となっている五つの訓戒「五省」の一つ目に挙げられているのは「至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか」-つまり今日一日、自らの誠意を尽

くして生きることはできたか。人から見て不誠実と思われるふるまいはなかったか。こうした精神があるからこそ、日本の自衛隊は各国軍との合同練習や交流などで高い評価を得るのだろう。「米海軍の艦に今回初めて乗って、日本の艦の綺麗さを改めて感じました。こうしたささいなことでも日本の自衛隊はきちんと統制されています。船体整備や清掃が行き届いているということは乗員一人ひとりの意識と規律の高さの証でもあります。そうしたことが日本の自衛隊の強みだと思います。」

 

駒谷さんW

 

実習幹部

駒谷真琴 3等海尉

名古屋大学の経済学部で『貧困国の経済成長』にフォーカスして学び、世界平和に興味をもった駒谷3等海尉が選んだのは自衛隊の幹部候補生学校へ進むという道。男性に比べ女性の採用人数は男性の10分の1以下であるため、採用倍率は非常に高く、30倍とも40倍ともいわれる。その熾烈な競争を勝ち抜いて採用された女性自衛官は非常に優秀な人材の集まりだという。

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