京大流トップをはれる 人財づくり

 06/06/2015 : 1533 Views

穏やかな笑顔と、柔らかい京都弁の話し口調がとても印象的な人だ。

だが、そんな外見や雰囲気とは裏腹に、静かながら熱い闘士を言葉の端々に滲ませる。

京都大学アメリカンフットボール部「ギャングスターズ」―6度の学生日本一、4度の社会人を含めての日本一の栄光に輝き、スポーツ界だけに留まらず多方面から「文武両道集団」として尊敬と称賛を集めてきた。その伝統と栄光のチームを率いる熱き闘将は、日本の、そして世界の未来を担えるリーダーづくりのための改革の真っただ中だという。プナホウ高校フットボールチームとの合同練習のためにハワイ入りをした西村大介監督を日刊サンが独占取材した。

 

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京大の学生一人一人に投入される

税金は約一千万

京都大学で4年間学ぶということは国から一千万円支給されたのと同じこと。東大、京大の学生一人一人にそれだけの税金が投入されているのは、日本という国を背負って立つことを期待されているからです。しかし現状はというと、京大は今、うつ病及びうつ病予備軍といわれている学生が2割という状況です。

京大というところはものすごく自由な所です。そうした校風が研究活動にも反映されて数々のノーベル賞受賞者を生みだしたと言われています。でもその自由が今の学生たちとマッチしていない。昔の京大は3割ぐらいの学生はいわゆる天才だったと思う。でも、最近は田舎の公立高校から来る学生は減って、大体が都心にある中高一貫の進学校からの出身者。勉強はきっちりやって、まじめで人の言う事はしっかり聞くのですが、面白みに欠ける。うちのチームの選手たちも7割ぐらいが小学校から塾通いをしてきた学生たちです。日本の未来を背負っている学生がこれじゃいかんなということで、せめてフットボール部だけでも変えていこうと、僕が監督に就任してからの3年間、抜本的に改革を進めています。

もちろん伝統と実績のあるチームです。これまで脈々と受け継がれてきた規律や指導方法を変えるとなると、OBや後援会からの反発やプレッシャーも相当なものになります。でも、時代は変わり、学生も変わった。私たちの目標は「日本一になること」、そしてその目的は、「社会をリードする人材の輩出」です。IT化によりグローバル化が進み、ビジネスや社会の変化のスピードが加速している。そんな社会では、自分の頭で考え、動ける人材が必要とされるのです。学生たちをそのような人材へと変貌させるためには、これまでの指導方法では難しいと思いました。

 

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カリスマはカリスマの元では育たない

これまでチームを率いてきたのは、水野彌一監督。京大アメフト部を4度の日本一に導いた名将です。

私も現役時代、水野監督の元でプレーをしていましたが、とにかく厳しかった。私が4回生でキャプテンになってすぐ監督に呼ばれ「西村、お前は、どんな時に笑うんだ?」と尋ねられました。「ほっとしたり、嬉しかったり、楽しかったりする時に笑います」と答えた私に、「現在NO.1の関西学院大学と、お前たちにはどの位実力の差があるんだ?」と監督。「関学は、高校時代からアメフトをやってきた学生をスカウトしてきていますが、国立大学の私たちはそれができない素人集団。大分差があると思います。」「そんな時にお前は楽しかったり嬉しかったりする瞬間があるべきなのか、ないべきなのか、どっちだ?」監督にそう聞かれたら、「ないべきです。」と答えるしかないわけです(笑)。実際僕はキャプテンを務めた1年間本当に笑っていません。それだけで終わらないのが凄いところで、「西村お前好きな食べ物はなんだ?」と続いたので、「わかりました。もう言わないで下さい。食べません」と即答しました。強烈でしょう?軍隊式の厳しいスパルタ指導でチームを率いてきたカリスマ性は圧倒的なものです。何か言われたら全身で震える感じでした。でも、このような指導の元では、行動力とか自立心を養うことはできない。全て指揮官が考え、指示してくれますからね。

水野彌一は、誰もが認める日本のフットボール界を牽引してきたカリスマです。僕がつくりたいのは水野彌一のような強いリーダーシップを発揮できる人材。だけど、皮肉なことに「水野彌一は、水野彌一をつくれない」。この因果性のジレンマから抜け出すには、指導方法を変えるしかないんです。

 

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黙って見守る―それが人を育てるということ

先ず改革として一番に手をつけたのは、それまで監督に全権委任されていた責任や権限の委譲です。学生のリーダーシップを明確にして、それぞれの責任範囲を決め、その範囲内では言いわけ無用で結果に全責任を負わせています。

キャプテンの責任は「今年勝つこと」。学生にも、「今年勝つかどうかについて僕は責任を持たない。僕の責任は、5年後、10年後もこのチームが日本一を狙えるポジションを取り続けることだ」と言い渡しました。僕は以前、経営コンサルタントをしていたので、入部してきた新入生全員に要素の洗い出しや、根拠と結論のつなぎ方などの論理的思考というものを教えます。そこからロジカルな思考習慣を身につけるため、実際の練習メニューなどを自分で考えさせる。いつも学生に問いかけるのは、「今日の練習で勝てますか?」ということです。「どうしてこの練習をやるの?」「これをすることのメリットは?デメリットは?」「代替手段はなんだろうね?」と問いかけ、常にプレゼンテーションをさせる。僕はある意味、水野監督より厳しいと思います。キャプテンにも、「お前が動かない限り何も起こらない。チームは勝たないし、いいチームにもならない」だから必死にやるしかないんです。その結果が敗戦であっても構わない。失敗体験から学べることの方が実は大きいのですから。ずっとエリート街道を歩んできた学生たちは、ほんのちょっとしたこと、例えば女性に振られたなどの理由でうつ病などになってしまう。社会に出て厳しい経営環境の中では、大きな失敗をするわけにはいかないですが、スポーツでは大いに挑戦をして失敗することも許されます。

実は昨年度の戦績は散々でした。スポーツ推薦制度のない国立大学では、毎年均一の戦力を維持することが難しいので、そういう年もあると思います。しかし、選手は本気の本気でやった。創設以来初めて、2部との入れ替え戦というところまできて、「ここからは俺が全権を指揮する」キャプテンからリーダーシップを取り返しましたが、それまでは、ただ我慢です。口を出さず見守り続けました。人を育てるってそういうことだと思うんです。シーズン終了後、僕はあえて、チーム全員の前で「こんな結果になったのは誰の責任だ?」と聞きました。「僕です」というキャプテンに、「彼は結果を出せなかったので、リーダーとしては失敗した。だけど、下級生も良く見とけ。彼は社会に出た後、何か大きなことをやるはずだ」と話しました。

 

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ハーバードの学生たちから学んだ改革の核心

選手時代に、ハーバード大学との試合があって、レセプションパーティーでハーバードの選手たちと話をする機会がありました。まず驚いたのは、彼らめちゃくちゃ面白いんですよ。一人ずつ一発芸みたいなものを持っていて、人の心をがっつり掴んでくる。どうしてこんなことができるのかと聞いたら「俺たちは世界のリーダーになるのだから、こういうことができなければならないんだ」。要するにどのように人と関係構築していくかというスキルを常に磨いているというんです。じゃあ、なぜフットボールをやるのかと聞いたら、これもまた同じことで「世界のリーダーになるのに、大学の教室だけで、リーダーシップを学べると思うかい?」と聞き返されました。僕は選手時代、ただただ日本一になることだけを目指してやっていたので「こいつら凄いな。こういうやつらが世界のリーダーになっていくんだろうな」と衝撃でしたね。

実際ハーバードのプログラムはスポーツに相当力を入れていて、それが人間形成に役立っている。日本のスポーツでもよく人間力を鍛えるみたいなことを言っていますけど、それとはちょっと次元の違う本当に生きるスキルを身につけるためにスポーツに取り組んでいるんです。それがとても素晴らしいなと思ったことが、現在のうちのチームの改革の核となっています。

昨年は、新入生60人のうち、30人を一か月間、全米の30都市に一人ずつバラバラに送りこみました。アメリカで一番人気のあるスポーツであるフットボールには大金が動く。だからメジャーカレッジは情報が漏れることを恐れて絶対に練習を見せないんです。それをどうにかして写真を撮ってこいというミッションを与えました。滞在先や学校の手配など、誰の手も借りずに一人でやることが絶対条件です。

この目的は二つあって、一つはフットボールを好きなってもらうこと。日本ではマイナースポーツですが、メジャーカレッジでは選手は学校のヒーローです。特になるべくアカデミックレベルの高いところに行かせたので、勉強もきちんとしてみんなの模範になるようにコーチからも言われている。そういったところも学んで来てほしいと思いました。

二つ目は、自立心を養う事。今、京大の入試日には、保護者同伴でくる受験生がいっぱいいて、何部屋も設けられた保護者室が満員になるんですよ。そうやって過保護に育てられた子たちが、いきなり見知らぬ場所に放り出されてサバイバルしてくることで、精神的にも強くなって帰ってくる。またFacebookで日本人以外の友達を30人作るというミッションもあり、ソーシャルスキルも磨くことができたと思います。

選手に4年間で身につけてほしいのは、「根拠のない自信」です。やればなんかできるんじゃないかという自信があれば、社会に出てからも積極的にチャレンジして行こうという気概を持った人材になるんじゃないかと思っています。そのうちチャレンジした経験が自信の根拠に変わるんです。

 

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熱い想いがスー・チーさんをも動かす

そういった人材づくりの効果がでてきたのではないかと思うのが、アウンサン・スー・チーさんの京大での講演会です。実は、この講演会実現のきっかけは、うちの選手の一人が『The Lady』というアウンサン・スー・チーさんの半生を描いた映画を見て感動し、1、2カ月に一度、各業界の最前線で活躍している方々をお呼びするチームのメンバー向けに開催している講演会に「スー・チーさんを呼んでいいですか?」と言いだしたこと。相手はミャンマーの連邦議会議員でノーベル平和賞受賞者です。普通だったら、そんなの無理だろうと一蹴するところでしょうが、僕は「お前が本気でやるんだったら一緒にやろう」と。

コネクションを探っているうちに、ミャンマーの日本人会の会長に行き着き、手紙を書けば、スー・チーさんにお渡ししましょうと言ってくださったんです。学生の手紙を読んだスー・チーさんが感激してくださり、その後は、外務省や京大の事務方との折衝しながら10人ぐらいのプロジェクトを組んで実行に向けて動きました。途中、僕らが先だったにも関わらず、同じ京都の龍谷大学に講演が決まり講演会実現が絶望的になったり、セキュリティーなどの問題でアメフト部だけで呼ぶのは無理だということになったりとトラブルもありましたが、その都度問題解決をしていったことも学生には勉強になったと思います。講演の10日ぐらい前は、練習よりも講演会の運営の方に掛りっきりになりましたけど、身につけてほしかったのは、まさにそういった実行力、挑戦してみようという意欲なので、学生たちが大きく成長したならそれでいい。

OBは僕のように、「笑うな」、フットボール以外するなと言われて育っていますから、僕のやり方は甘すぎると批判も受けますが、僕はグランド以外での人間的成長がチームの力に繋がると信じているので、OBには今勝つか負けるかよりも30年後を見てくださいと言っています。

学生たちには「馬力のあるソクラテス」になってほしい。もうなりふりかまわず、カッコ悪くても、やると決めたらやれる馬力がある人物。ただその時に自分なりの哲学というか、明確なビジョンをもっていてほしいんです。

僕がつくりたいのはリーダーです。リーダーはマネージャーとは違います。マネージャーは組織にいかに100%の力を発揮させ、組織の価値をマックスにするかを考える人です。リーダーは、率いている組織をリードして、他の人には見えていない世界を見せてあげる。それために一番必要なものは、好奇心と行動力だと思っています。それって実は=子どもなんですよね。でも、そんな子供のような心を持った人が世界をリードする。スティーブ・ジョブズや、ソニーの創業者盛田昭夫さん、本田宗一郎さんもしかりです。坂本龍馬だって脱藩してるんですから、親とか兄弟にどれだけ迷惑をかけたのかという話ですよね。それでも、「俺はこっちだと思うんだ」と、方向を示せる人が世界を変えていけるんだと思います。

 

 

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西村流「トップアップ」の組織論

組織は人ありき。チームの全員が、同じ意欲で同じ方向に進めればいいのですが、実際には温度差はばらばらです。キャプテンをはじめリーダーたちには、それを認識しろと言っています。組織論の一つ「2-6-2の法則」では、どのグループにも上位2割の生産性が高い優秀なグループ、中6割の平均的なグループ、下位2割の生産性が低いグループが存在するとしています。よく陥りがちなのは、上位の2割が、他のグループを責めるという構図です。そうではなくて、上の2割がもっと上を目指して登っていけば、組織全体が引き上げられ、必然的に下の2割のグループももとの位置より高い位置にいけると考えればいいと思うんです。それを僕は、「ボトムアップ」、「トップダウン」に対して、「トップアップ」と呼んでいます。特にリーダーが成長すると組織に対するインパクトが大きいので、キャプテンにはお前が成長すればチームも変わるから、人間的に成長しろと言っています。

京大アメフト部が面白いのは、雑用は4年生がやるということ。これは、僕が残している伝統的なルールです。このルールの良さは3つ。一つは、新入生を雑用が嫌だという理由で失うことがないということ。2つ目は、下手な新入生が練習に専念できるということ。僕は3つ目が一番重要だと思っていのですが、リーダーシップを発揮しやすい環境が整うということです。キャプテンが必死にトイレ掃除をしていたら汚せないですし、あらゆることを率先してやっているキャプテンから「この試合は命がけでやってくれ」と言われれば、下級生たちは燃えざるを得ない。

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