【インタビュー 輝く人】NGOジュレー・ラダック主宰 スカルマ・ギュルメット

 08/28/2017 : 322 Views

インドの北に、人々が大変シンプルな生活をしている山岳地帯、ラダックと呼ばれる地方があります。ここに住む人々は農民が多く、遊牧民も、ほとんどがチベット仏教徒。各家庭には必ず写真が飾られているというダライ・ラマ法王も、毎年、ご説法に訪れ、その際には、ラダックの中心街、レーという小さな街になんと10万人以上の人々が訪れます。ヒマラヤ山脈に囲まれ、夏でも雪山が見渡せるという、環境的にも大変厳しい地域ですが、自然の厳しさが作り上げるその美しい風景、そしてラダック人のシンプルで地球に優しい生き方に、私たちはどうやら学ぶことが、たくさんありそうです。

ラダックを紹介するNGO団体、「ジュレー・ラダック」を主宰しているラダック出身の、スカルマ・ギュルメットさんが、ラダックのことをハワイの人達にも紹介する為に講演会にいらした際に、お話を伺いました。

 

NGOジュレー・ラダック主宰 スカルマ・ギュルメット

1966年、ラダック生まれ。大学卒業後から、セーブ・ザ・チルドレン・プロジェクト(イギリス)など様々なNPO, NGOの団体に所属し、人々を助けることに専念。1998-2000年までハワイに住み、カピオラニ・コミュニティ・カレッジやハワイ大学に通う。2001年に日本に移住し、2004年から、ラダックを人々に紹介するNGO団体「ジュレー・ラダック」をスタート&主宰。 スタディツアー、ホームステイ・プログラム、文化交流を行う他、エコフレンドリーでサステイナブル(持続可能な)自主経済発展を目指す活動をラダックで行っている。ジュレーとは、ラダックの言葉でアロハというような意味。ちなみに彼の名前の意味は「変わりなき星」。

http://julayladakh.org

 

お金が要らない。心が豊かだから。

ーまずはラダックとはどんなところか教えて下さい。

 

ラダックはその昔、独立した仏教王国でしたが、19世紀に滅亡し、インド領となりました。ヒマラヤ山脈などに囲まれ、夏の間、数カ月以外は雪で塞がってしまい、寒さが厳しく乾燥しています。ラダック人はチベット仏教徒がほとんどで、小さな頃からチベット仏教の教えを学びながら育ちます。嘘をついてはいけない理由はなぜか、なぜ人を殺してはいけないのか、なぜ自然を尊重しなければいけないのか、などを語り合います。ですから、ラダックではほとんど犯罪はありません。とてもみんな平和でハッピーなんです。

経済的に豊かとはいえないし、過酷な気候なので、不便なことも多いですが、心がとても豊かです。ラダックに住む人々はみんなが兄弟、家族だと考え、お互いを助け合うことが当たり前です。助け合わないと生きていけないという理由もありますが、常に自分以外の人のために、なにかできないかと考えています。ですから、僕にとっても「人助け」ということは自然なことでした。  

 

ラダックの人達はとてもスピリチュアルで、誰もが普通にチベット占星術で人生を占い、悪いことがあると予言された時期が近くなるとお坊さんにお祓いしてもらっています。常にシャーマンや、ヒーラー達がそばにいて、治療代を彼らは一切とろうとしません。治療につかった薬は、自然界からとってきた薬草なのだから、お金は必要ないというのです。その代わり、カタックスという尊敬の念を込めた神聖なスカーフを捧げたり、食べ物をわけたりと、ブツブツ交換などをすることも多いです。グローバル経済がラダックに入ってきてからは、最近、皆少しお金を払うようになっていますが、それでも今だに決まった値段ではありません。

インド北部の山岳地帯、ラダックの風景

 

このようにお坊さんやヒーラー達の影響がラダックでは大きく、いまだに、赤ちゃんが産まれると、その名前は親がつけるのではなく、お坊さんがつけています。ですから、僕も11人の兄弟がいますが、全員名前が(名字も)違うのです。その11人の兄弟は私の場合は父親が違います。ラダックでは、一妻多夫制が認められているので、母に一人以上の夫がいることがあります。一夫多妻も認められていますが、男性の場合、2人程度が平均です。全員が全員ポリガミー(複婚)をしているわけではありませんが、みんなとても幸せですよ。経済的にもこのほうが助かりますし、執着心がなくなるので離婚に至らずにみんなが安定しているのです。憎しみあうということがあまりないんですね。  

ラダックに住む人達は、カフェやレストランなどモダンな娯楽は都市部以外にないですから、人の家に集まってお茶を飲むのが日課です。誰々が最近どうなった、じゃあどうやって助けてあげようか、といった話題がほとんど。ラダックは、日本では想像できないような不便さがあるのは確かです。でも、仲間がいるからお金がそんなに必要ない。人と自然とつながっているから心が豊か。純粋さがいっぱい残っているのです。

祈り

 

—そのようなラダックから日本へ移住したきっかけは?

 

結婚がきっかけでした。日本に行くまでは、セーブ・ザ・チルドレンなどNPO、NGOの活動をずっとしていたのですが、その後、学生として教育をうけようとハワイで数年過ごしたんです。この数年のみが、社会的な活動をなにもしていなかった期間でした。ハワイはスローだし、お天気がいいし、人が優しくて焦っていないから、僕にとっては心地よいですね。本当はハワイでも活動をしたかったけど、お金がなくて、なにもできなかったので、この時期だけ仕事をしていませんでした。  

そして、日本に帰って、「ジュレー・ラダック」(http://julayladakh.org)をスタートすることになったんです。設立にあたって僕の日本人の友人達が一生懸命サポートしてくれて、そのおかげで今もこうして活動できているんです。

 

—ラダック地方を紹介するジュレー・ラダックをはじめた きっかけや、その目的はなんですか?

 

日本に行って、多くの日本人と出会いましたが、日本は大企業が多く、みんながせわしなく一生懸命働いている国だと感じました。でも、あまり満足感がないように感じたんです。  

日本といっても、特に大都市や東京ですが、実は日本にいくまで、こんなに自殺とか引きこもりが多いことや、心の悩みをもっている人達がいるなんて知らなかったので、なにかできないかと思いました。  

そこで、僕が生まれ育ったラダックと日本の関係を結ぶ交流機関をつくることによって、スローライフ体験やホームステイ体験などができるようにして、違う生き方を見せてあげるオプションを提供したかったんです。モダンな生活が悪いわけではありませんし、なかには、金銭的に裕福で成功し富を得ることが幸せだと思っている人もいます。それはその人の価値観ですから、僕はそれを変えようとは一切考えていません。絶対に、価値観を押し付けたくはないのです。それはやっちゃいけないことです。ただ、こういう生き方もあるんだよ、と違う世界もみせてあげたいと思ったんです。生きるということの原点に戻り、なにかを感じとってもらいたかったので。

水汲みの途中で

 

—今までに参加した人達はどんなことを学ばれたのでしょう?

 

参加者は、一般の会社員から、大変忙しい生活をしていて疲れ果てている方など様々。農業を学びたいとか、スローライフを体験したいとか、伝統的な文化に触れたいとか、大学ゼミの参考になるからと大学教授等の参加も多くあります。その他、社会開発又は未来環境の研究のヒントになるからと社会活動家も参加したり、とにかく参加の理由は色々ですね。この世の中は何かがおかしいと感じていて、ちょっと違った生き方をしてみたい、あるいは社会を変えたいという思いの強い方などを始め、心になにかを抱えている方、または、単純に別世界を見たかったっていう人など、今まで色んな方がいました。でも、どの人も、ラダックで、1週間ないし、数カ月暮らすと、なにかしら影響があるようです。人間らしさを取り戻すというのでしょうかね。  

今までにも、プログラムが終わったあとに、「とても助かりました、ありがとう」と言われたこともありましたし、鬱など心の病気がラクになったという人も多かったです。また、大企業で働いていたのに、ぱたっと辞めて田舎に引っ越して農業を営むことにして、今では自給自足生活をしていて幸せだ、なんて方もいるんですよ。そういう話を聞くと、ああ、やってて良かったと思いますね。別に僕がなにをしたわけじゃなくて、ただプログラムを作っただけで、変わろうと思ったのはご本人なのですけど、それでも嬉しく思います。

 

“人間は自然のなかで もともと暮らしてきたのだから、 人工的なモノに囲まれていると壊れるのは当然”

 

—日本の人達の抱えるストレスについて、 その原因はなんだと感じますか?

1 2 3

関連記事

関連記事はありません。



その他の記事